25.06.20
自然災害や事故、感染症のパンデミックなど、予期せぬ緊急事態はいつ発生するか分かりません。そうした状況下でも企業が事業を継続し、または迅速に再開するための準備こそが、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画) です。
特に中小企業は、大規模な企業に比べて経営基盤やリソースが限られているため、BCPの策定は事業の存続を左右する重要な備えとなります。BCPでは、緊急時にどの業務を優先すべきか、従業員や関係者との連絡をどう取るかなど、具体的な対応方針を事前に明確にしておきます。
BCP策定は、単なるリスク対策に留まらない多くのメリットを中小企業にもたらします。その主な理由を5つご紹介します。
災害や事故が発生した際、BCPが整備されていれば、事業を速やかに再開し、顧客や取引先への影響を最小限に抑えられます。中小企業は、長期の事業中断が経営に致命的な打撃を与えかねないため、BCPはまさに企業の生命線となり得ます。
近年、大企業を中心に取引先にBCPの策定を求める動きが広まっています。中小企業がBCPを策定することで、取引先からの信頼を得やすくなり、新規取引の獲得や既存取引の維持に繋がり、結果的に競争力向上に貢献する可能性があります。
BCPの策定は、金融機関からの融資判断や条件交渉において有利に働く場合があります。事業の継続性が計画的に担保されていることは、金融機関からの信用力を高め、資金調達の円滑化に寄与するでしょう。
BCPには、緊急時における従業員の安全確保策も含まれます。これにより、災害時でも従業員の安全を守り、さらに事業継続を通じて雇用維持にも繋がります。これは従業員の安心感を高め、会社への信頼感を醸成する効果も期待できます。
BCP策定のプロセスは、自社の業務プロセスを詳細に見直す貴重な機会を与えてくれます。この過程で、普段気づかないような非効率な業務や潜在的なリスクを発見し、平常時の経営改善にも活かすことができるでしょう。
このように、BCP策定は中小企業にとって、リスク管理だけでなく、経営強化や競争力向上のための戦略的な投資と言えます。早期に取り組むことで、企業の持続的な成長と発展を力強く支える基盤となるでしょう。
BCPは、策定して終わりではありません。実際の緊急事態が発生した際に、その計画が機能するかどうかが最も重要です。ここでは、BCP策定後に特に注意すべき2つのポイントをご紹介します。
災害発生時に従業員が適切に動けるよう、BCPの内容を社内で定着させることが不可欠です。マニュアルを配布するだけでなく、定期的な研修や訓練を積極的に行うことをおすすめします。
例えば、非常用電源の操作方法や、緊急時連絡ツールの使用方法など、普段使わない設備やツールの扱いに習熟しておくことが大切です。これらは定期的に訓練を重ね、全従業員が使いこなせるようにしておくべきです。安否確認システムなど、日常業務での連絡にも使えるツールであれば、普段から利用して操作に慣れておくのも効果的です。
BCPは、一度作ったら永続的に有効なものではありません。企業の状況や外部環境の変化に対応できるよう、常に最新の状態に保つ必要があります。以下の情報が変化するたびに、BCPの内容を見直しましょう。
これらの情報が変化する都度、BCPの内容を見直す仕組みを設けるのが有効です。具体的にどのタイミングで見直しを行うか、チェックリストを作成しておくことで、抜け漏れなく計画を更新できるようになります。
中小企業におけるBCP策定率は、大企業と比較してまだ低いのが現状です。しかし、本記事で述べた通り、BCPは単なる「守り」の対策に留まらず、企業の「攻め」にも転じる可能性を秘めています。特に中小企業においては、限られたリソースの中で、いかに柔軟な発想でBCPを構築し、日々の業務に落とし込むかが鍵となります。
「もしも」の事態に備えるBCPを、「いつも」の業務の一部として捉えることで、その実効性は格段に高まります。
BCPは、単なる防災マニュアルではありません。それは、企業の存続と成長を支える経営戦略の一環と位置づけるべきです。例えば、BCP策定の過程で業務プロセスを見直すことは、平時の業務効率化やコスト削減に繋がります。また、サプライチェーン全体のリスクを把握することは、新たな仕入れ先や販売チャネルの開拓に繋がる可能性も秘めています。
BCPを「義務」としてではなく、「機会」として捉え、積極的に経営に組み込むことで、企業は予期せぬ事態への対応力を高めるだけでなく、平常時の競争力も強化できるのです。
現代のBCPには、デジタルツールの活用が不可欠です。安否確認システム、クラウドを利用したデータバックアップ、リモートワーク環境の整備などは、緊急時の事業継続を強力にサポートします。しかし、それだけでは十分ではありません。
例えば、災害時の停電を想定し、手書きのマニュアルや物理的な連絡手段(トランシーバー、非常用携帯電話など)を用意しておくといったアナログな備えも重要です。デジタルツールが使えなくなった場合の代替手段を確保することで、よりレジリエンス(回復力)の高いBCPが実現します。デジタルとアナログ、それぞれの強みを理解し、適切に融合させる柔軟な発想が求められます。
中小企業にとって、単独でのBCP策定には限界があります。そこで重要になるのが、地域との連携です。
自社のBCPが地域の防災計画と整合しているかを確認し、連携を強化できます。
相互支援協定を結ぶことで、設備や人材の融通、情報共有などが可能となり、単独では困難な対策も実現しやすくなります。
地域の災害情報や支援策をいち早く入手し、活用することができます。
地域のネットワークは、まさかの時に企業を支える強固なセーフティネットとなり得ます。自社の中だけでなく、地域全体で災害に強い体制を築くという視点を持つことが、中小企業のBCPをより実効性のあるものにするでしょう。
災害はいつ、どこで発生するか予測できません。しかし、事前の備えと継続的な見直しによって、その影響を最小限に抑え、事業の早期復旧と継続を図ることが可能です。本記事でご紹介したBCP策定のヒント、そして「もしも」を「いつも」に変えるための柔軟な発想を参考に、貴社のレジリエンス強化に繋がる一歩を踏み出していただければ幸いです。