25.01.17
BCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)とは、企業が自然災害やテロなどの緊急事態に遭遇した場合でも、事業の継続・復旧を迅速に行うための計画です。
単に「防災用の備蓄をする」「避難経路を決める」といった命を守る防災対策とは異なり、BCPは「企業の操業度をいかに速やかに、あらかじめ決めた許容レベルまで回復させるか」という、経営の維持・防衛に特化した戦略的計画となります。
緊急事態発生時に、事業の早期復旧に向けた迅速な対応が可能となり、被害を最小限に抑えられます。
インシデント発生時の指示命令系統や、誰がどの業務を優先して立ち上げるかの「指揮権と手順」をマニュアル化しておくことで、現場の混乱やパニックによる初動の遅れをなくし、事業停止期間を最短に抑えることができます。
BCP策定の過程で、自社にとって最も重要な事業(中核事業)を明確化できます。これは、経営戦略の見直しにもつながります。
すべての業務を同時に復旧させるのは不可能です。リソースが限られた被災時において「1社として絶対に止めてはならない、または最優先で復旧すべきコア事業はどれか」を順位付け(ビジネスインパクト分析:BIA)することで、平時における経営資源の選択と集中にも好影響を与えます。
BCP策定を通じて、事業の強みと弱みを明確に把握できます。これにより、リスクヘッジ対策や日常業務の見直しに役立ちます。
「特定の部品サプライヤーに依存しすぎている」「特定のベテラン社員しか知らないシステムがある(属人化)」といった、平時には見えにくいボトルネック(単一障害点)が浮き彫りになり、業務プロセスの標準化や外注先の多重化などの体質改善へ繋がります。
BCPを策定していることは、取引先や顧客からの信頼を得ることにつながります。緊急時でも事業を継続できる体制は、企業としての信頼性を高める要素となります。
特に大企業とのサプライチェーン取引において、BCPの策定有無や、有事の際の供給停止リスクへの対策が開示されていることは、入札や継続契約の必須要件(企業の社会的責任:CSR)となりつつあります。市場における強力な競争優位性となります。
BCP策定には、担当者の人件費やコンサルティング費用などのコストがかかります。また、従業員への教育にも時間とコストが必要です。
形だけのマニュアルを作っても機能しません。現場を巻き込んだプロジェクトチームの立ち上げや、ガイドライン作成のための社内工数、定期的な避難・机上訓練(シミュレーション)を実施するための業務時間など、継続的な運用のためのリソース投資が必要になります。
BCP対策として、データバックアップや代替拠点の確保などを行う場合、追加のコストが発生する可能性があります。
有事の際に業務を引き継ぐための「バックアップオフィス(代替拠点)」の契約や、基幹データをリアルタイムで別拠点のデータセンターへ同期させるネットワークインフラ、リモートワーク用のPC一斉支給など、ハードウェア・ファシリティ面の「二重投資」に伴う固定費の増加が課題となります。
地震や水害などの自然災害や、ITシステム障害、感染症の流行など、事業継続を脅かすリスクは多様化しています。これらのリスクが顕在化した場合、企業は甚大な損害を被る可能性があります。
これまでは「局所的な自然災害」の想定が主流でしたが、現代ではランサムウェアによる全社システムの暗号化や、感染症による全従業員の出社停止、電力供給の制限など、複合的な要因で事業の全停止に追い込まれるリスクが飛躍的に高まっています。
現代の企業活動は、ITシステムに大きく依存しています。システム停止は、業務の停滞や顧客への影響に直結するため、BCPによる対策が不可欠です。
IT BCP(情報システムにおける事業継続計画)の策定では、「いつの時点のデータまで戻せるか(RPO:目標復旧時点)」と、「何時間以内にシステムを再稼働できるか(RTO:目標復旧時間)」を業務ごとに定義することが極めて重要です。決済システムや顧客データベースなど、1時間の中断も許されないシステムには、自動切り替え(フェイルオーバー)機能などを組み込んでおく必要があります。
グローバル化が進む現代において、サプライチェーンの寸断は、事業継続に大きな影響を与えます。BCPでは、サプライチェーン全体のリスクを考慮した対策が必要です。
自社が完璧であっても、川上の物流や部品メーカーが1社でもストップすれば製品出荷は止まります。そのため、BCPの適用範囲を自社内だけに閉じず、重要な取引先のBCP策定状況を確認・評価(サプライチェーン・リスクマネジメント)し、代替となる調達・流通ルートをあらかじめリストアップしておく先手が求められます。
企業に対するBCP策定の要求は、法規制やガイドラインによって強化される傾向にあります。
例えば、医療・介護などの社会インフラを担う分野では、法改正によってBCPの策定が義務化されています。また、一般企業であっても、労働契約法に基づく「安全配慮義務」の観点から、有事の際に従業員のリスクを放置した企業が経営責任を問われる判例が増えており、法的リスク回避の意味でも策定は不可避となっています。
BCP策定にはコストがかかりますが、緊急事態発生時の損失と比較すると、そのメリットは大きいと言えます。企業は、BCPを策定することで、事業継続能力を高め、リスクを軽減することができます。
BCP策定は、企業の持続的な成長と社会的な信頼を得るために不可欠な取り組みです。
BCPを成功させる鍵は、作った計画を眠らせない「BCM(事業継続マネジメント)」の思想にあります。組織の改編やITシステムの更新に合わせて、計画を定期的に見直し(Plan-Do-Check-Actのサイクル)、年に一度の訓練を通じて実効性を検証し続けることで、初めて「生きているBCP」として、本当の有事の際に企業の命運を救う盾となります。
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